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030: ともに、高みへ!―京大ラグビー部からの「招待状」〈後編〉(H3 中崎 学)

更新日:2021年11月26日

京大ラグビーの可能性を感じさせた2018年。平成年代初のBリーグ3位に躍進した闘いを振り返る。OBから、高校生ラガー・京大へ入学した学生たちへの熱いメッセージ。


「KIU2018 ともに、高みへ!」VTR(8分9秒)




 ヤマ場と言えば、すべてのゲーム、すべての局面がヤマ場だった。だが、2018年度の京大の闘いの帰趨を決した分水嶺として、3つのゲームに指を屈しよう。リーグ初戦の追手門大戦、2戦目の花園大戦、6戦目の大阪教育大戦。



リーグ初戦の追手門大戦


 春シーズンの終盤に行われた練習試合で、2年前の入替戦で京大を粉砕してBリーグに昇格した追手門大との手合わせがあった。2017年度、Bリーグに昇格するやいきなり大阪体育大(大阪体育大は追手門大以外に全勝し、入替戦でも摂南大を破ってAリーグに復帰した)に金星をあげる実績を残した追手門大は、2年前とくらべてもはるかに強力なチームへと成長していた。結果は0―73の大敗。

完膚なきまでに叩きのめされた相手に、秋のリーグの初戦でぶつかる。もし本番でも惨敗すれば、そのまま心が折れてしまいそうなシチュエーションだ。縮こまりがちな肉体に、どうしたら躍動が生まれるか? 圧倒されそうな心が、いかにして規律と士気をたもてるか?

 状況が困難な時ほど、答はつねにシンプルだ。チーム一丸となったハードワーク。これ以外にない。京都の夏はむごい。気温は連日38度台を記録し、剝きだしの日が直射するグラウンドでの体感は40度を越える。熱中症対策を周到に行ったことは言うまでもないが、そのむごい夏、京大は午前・午後のハードな二部練を積み重ねた。つづく菅平での合宿でのタイトな試合日程を通じ、自分たち固有の戦い方をつかみとった。関東大学対抗戦Bの成城大に68―0で大勝したことも自信となった。基礎力の徹底した底上げが、太枠の戦法にがっしりと接続され、春とは別物のチームに脱皮したのだ。

 対追手門大戦の9月16日。仕事中だったあるOBは、京大ラグビー部のツイッターにふと目を落として絶句した。33-26。何度みても、春に0―73で惨敗した同じ相手に対する母校の勝利が告げられていた!

 同じころ、グラウンドで観戦していたOBたちは飛びあがって歓喜していた。最大で14点ものビハインドを背負いながら、15人全員が誰ひとりとして怯まず、球際で果敢に体を張りつづけた。後半、京大の鋭い出足のタックルに攻めあぐねだした相手に、猛練習で培った豊かなフィットネスで走り勝った。齋藤瑞輝副将(PR/仙台第一高校出身)が「8人が一体となって、押し込むベクトル、呼吸を合わせることにとことんこだわった」と胸を張るスクラムで何度も相手のパックを決壊させ、ついには認定トライをもぎ取った。BKも負けてはいない。終了間際、鋭いタテ突破からポスト真下へ走りこんだ。強敵に逆転勝ちした喜びに拳を突きあげる後輩たちの雄姿に、涙を流すOBすらあった。

2018年関西Bリーグ初戦の追手門大戦(京大33-26追手門)


2戦目の花園大戦


 格上とみなされていた追手門大に勝った京大に対し、相手はトンガ人留学生を、外国人枠ギリギリの3人まで起用してきた。日本人にはない圧倒的な躍動感を全身にみなぎらせ、いったんスピードにのれば容易に止められないバネで武装する彼らに、臆さず立ちむかうことができるのか?

 ゲームが始まると、相手の突破力の前に1人目のタックルが弾き飛ばされたり、鋭いステップに翻弄されたりというシーンが繰り返された。しかしそのたびに2人目、3人目がしぶとく食いさがり、ビッグゲインを未然にふせぐ粘りを発揮した。後半途中で力尽きるというよくある負けパターンに陥ることもなく、最後の最後まで全員が走りきり、体を当てきった。

 ラストワンプレー、敵ゴール前のFW・BK一体となったラッシュでついに逆転トライをもぎとる(22-19)というドラマチックな結末を生んだのは、まさにその粘りにほかならなかった。最後の最後で、敗北を勝利にターンオーバーするという鳥肌ものの幕切れは、京大の新たな伝統の開始を告げる執拗なディフェンスの賜物だった。

2018年関西Bリーグ2戦目の花園大戦にも勝利(京大22-19花園)


6戦目の大阪教育大戦


 3連勝のあと、摂南大、龍谷大という強豪に連敗。迎えた第6戦の大教大戦は、3位以上という目標を達成するためには、決して負けられないゲームとなった。

 スコアは23―20。薄氷を踏んだが、京大は競り勝った。両者の地力は互角だったが、勝負を決めたのは、おのれの得意とするプレーの徹底において、僅差で京大が上回ったことだろう。京大のストロングポイントは、北川有広FWコーチ(平成11年度立命館大主将。NEC・神戸製鋼など強豪チームでPRとして活躍)に鍛えられた固いバインドのスクラムだ。時間や地域にかかわらず愚直にプッシュしつづけたスクラムが、チーム全体の前に出る力を牽引した。

 FWだけではない。藤井宏二BKコーチ(平成3年度京大副将。黄金期の神戸製鋼でWTBとしてプレー)が、昨年の就任以来、ハンズアップ・インサイドキャッチ・ストレートランといった基本から教えこんだBKも、指導した当の藤井コーチが驚くほどの成長ぶりを示した。前半終了間際、FWがつないだボールをSOが矢のような飛ばしパスを放り、受けたWTBが対面のチェイスからフルスピードで逃げに逃げ、フラッグぎりぎりに飛びこんだトライは、これぞラグビーの醍醐味というほかないダイナミックな躍動を観た者の目に刻みこんだ。

2018年関西Bリーグ6戦目。(京大23―20大教大)

 7勝2敗。摂南大(関西大との入替戦に勝ってAリーグ復帰)、龍谷大につぐ3位。OBたちが驚いた春先の宣言を、見事に有言実行した有澤主将は、達成感をにじませながらもこう言う。「3位『以上』という言葉に甘えてしまったことの後悔の念も実はあります。入替戦へ出場、さらにAリーグへ昇格するには『以上』という言葉に甘えたりせず、本気でそこを目指さないとたどり着けないということを感じた1年でした」。



ラストゲームの東大戦


 貪欲さを失ったアスリートに明日はない。成長を忘れたチームを楕円球はあっさり見放す。ラストゲームはつねにベストゲームでなければならない。

 今期の最終戦は、関東大学対抗戦Bで4勝3敗の3位という好成績をおさめた、東大が相手だった。

 国立大学同士の意地がぶつかりあう一戦で、近年最強との声もある東大相手に、京大は苦戦した。前半終了間際に1トライ返して7―12で折り返したが、後半開始早々にFWラッシュでゴールを割られ、12点差をつけられた。思えば平成の30年間、京大はここで諦めつづけてきたのだった。苦戦を、真に苦しむことができなかった、といってもよい。このチームは、そこが違った。点差がひらいても決して諦めない。15人全員が、相手の圧力にとことん苦しみつつも、目前のワンプレーに集中し、1㎝でも前に出ようと全力をふりしぼる。

 後半もなかばを過ぎてから、京大が2トライ2ゴールをあげて逆転したのは、「奇蹟」などという安易な言葉で言い尽くせはしない。真摯なアスリートたちの闘いに「勝利の女神」など存在しない。フィールドを支配するのは「奇蹟」や「女神」ではなく、力のある者が最後に勝つ、というあまりにも現実的な掟のみだ。京大は最後の20分で今期の集大成を見せた。スクラムトライを奪い、相手のゲインに執拗なタックルを繰り返し、ノーサイドの笛が鳴るまで懸命に走りつづけた。21―19。ラグビーの厳しさと美しさを凝縮したようなこのスリリングなスコアこそ、ラストゲームをベストゲームになしえた者たちに送られた、栄えある勲章だった。



 今期の日程をすべて終えた今、溝口正人監督(H1年度京大主将)は「今年は4回生を中心に非常によくがんばったと思う。だが、Aリーグ復帰にはさらに2段階ほどレベルアップが必要になる」と冷静に前置いた後、こう言って不敵に笑う。「入試も厳しく、実験やゼミにも時間をとられ、スポーツ推薦なんてものにはとんと縁のない国立大学が、強い私学たちに伍してAリーグ昇格をめざして争う。これほどやりがいのあるチャレンジが、ほかにありますか?」

 伝統校。古豪。そういった称号だけが重宝され、貪欲に上をめざすマインドを失いかけていた状況に、このチームは、はっきりと「ノー!」を突きつけた。京大はもっとやれる。そのことを自他に証明してみせた一年だった。


 先端的なラグビー理論を知悉し、卓越した指導力を発揮する監督・コーチ団のもと、宇治の山のふもとの広大なグラウンドで、仲間とひたむきに楕円球を追う。そして数多の定期戦とリーグ戦を一丸となって全力で闘いぬき、勝利の美酒に酔う。そのかなたにある目標は、強豪ひしめく関西大学Aリーグ。今年度のメンバーも、水野武主将のもと、全力でこの大きな目標に立ち向かってくれるはずだ。


 そして、京大に入学した君たち。いま、京大めざして勉強に励んでいる君たち。合格のあかつきには、京大ラグビー部の100年を数える長い歴史をリレーする一員として、ともに高みをめざして努力してみないか。


卒業するまでにBリーグ上位入れ替え戦出場、Aリーグ昇格を目標に定め、絶対に達成します。


――この「叫び」にこめられた京大ラグビー部の熱い「想い」が、今その「叫び」を読んでいる君たちをこそ、心待ちに待っている。


2018年関西リーグ戦・大教大戦終了後の集合写真

(H3 中崎 学 / 編集:H2 柴野 恭範)


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