"To The NEXT 100 Yrs" 次の100年へ。
《特別インタビュー》
日本選手権7連覇を成し遂げた新日鐵釜石と京大とは縁が深い。主将、監督、副部長としてV7の基礎を築いた京大OBの市口順亮(1964年卒)がいたし、京大が夏合宿に出向いたこともある。
――我々は3回(1977、78、80年)釜石に合宿に行った。当時のチームにとっては大変、強化につながったと思う。そのころのことを覚えているか
あんなところまで来てくれるチームはあまりない。市口さんもそうだし、釜石の先輩方が言ったのは、夜はちゃんと飲みにつれて行け、ということだ。面倒見て、ラグビーの話をしたりするということだ。
*京大ラグビー部はラグビー部は1963年と67年にも釜石で合宿を行っている。
――釜石の人たちは夕方まで製鉄所で働いて、そのあとラグビーをしていた。これこそ真のラガーマンだと思った
練習はどこでもできるということを釜石の先輩が教えてくれた。みんな(仕事中)工具がいっぱい入った3キロぐらいある皮のベルトを腰にぶら下げている。高いところに行くときは肩に縄もかけている。重い安全靴も履いている。それで構内を点検したりする。それも練習なんだぞ、と言った先輩方がいた。階段を上るときに、それでも早く上ろうとか、そういうことから自主的な練習、自分自身がもっと強くならなくちゃと思うようなチームカラーが出来上がっていく。
――明治大学でチームを率いる立場になって、次に進まれたのが新日鐵釜石だった
これはまたチームカラーが違った。新日鐵釜石はほとんどが高卒で、大卒は3,4人だった。仕事第一で、練習は夜、ライトをつけてした。それでいてレベルはどんどん上げていかなければいけない。連勝するということは大変なことだ。松尾だけマークしていればいいというものではない。ラグビーは一人じゃ何もできない。みんなでどういうことをやっていこうか話し、一人一人がどういうことをやろうか考えて、またみんなで考える。ワンフォーオール、オールフォーワンという言葉がある。みんなのための一人にはなれるが、一人のために、その判断でチーム全員が動くことはなかなかできない。誰かが打ち合わせと違う判断をしたとき、それに対してチームがみんなついていかないといけない。そういう人を思いやる心がないと、けっこう強いチームでもバラバラになっていく。そうすると個人プレーに見えてしまう。釜石が国立競技場で13人つないでトライしたことがある。
――有名なシーンだ
あれはぼくのところに(敵が)かぶってきたから、蹴れるタイミングがなくなって、困って横の小林(のちの角)君に渡した。味方の陣地からだから、タッチキックしかないのに松尾が蹴らなかったから、角君は困って自分がポイントになろうと真っすぐ突っ込んでいった。そこに千田が「渡せー」と入ってきて、そこからみんながどんどんつないでいって最後はトライまで行っちゃった。
どんなことでも、ノーベル賞でも、絶対一人ではできないと信じている。「これをやってみないか」と言ったときに、みんなが「それ、やってみようよ」と言わなかったらできない。山中(伸弥)先生だってそう言うと思う。
――(われわれの)インタビューでも、そういうことをおっしゃっていた
ラグビーは社会の縮図のようなものだ。強いチームに強いやつばかりがいるわけじゃない。会社だって庶務課があり、人事課があり、いろんな課があり仕事をしあって、それで成績を上げていく。それは新日鐵という会社で勉強させられたことだし、いまでもそう思っている。
――我々の先輩でもある市口さんから学んだこと
それはもう猪突猛進というか、ただ真っすぐ行け、ということとか。あの人がとても変わっていたのは、人とコミュニケーションを取ろうとするところ。変な替え歌歌ってみたりとか、そういうことも平気でやるし、勉強だけじゃなくて人の心もすごくよくわかる。そういう印象だった。プレーはうまいとは思ったことはないが、タックルはすごいし、ボールを持った時の責任感もすごかったし、当時としては体も大きかった。一生懸命俺たちと一緒になって練習もした。我々は歴代の監督に恵まれていた
社会人になれば、どこの大学出身だということはない。そのなかで(市口さんは)まじめさや猪突猛進や、ひとつひとつの理屈を教えてくれた。さっぱりわかんないんだけど(笑)
▼元日本代表・松尾雄治さんの「新日鐵釜石の13人トライはなぜ生まれたか」動画はこちら(約9分)
(2021年4月13日「リビング」にて収録)
取材:白石良多(S54/WTB)/真田正明(S55/PR)/西尾仁志(H2/CTB)
▼松尾雄治さんのプロフィール
1954年東京都生まれ。成城学園中学校、目黒高校、明治大学、新日鐵釜石。目黒高校のときに全国優勝。大学2年生でスクラムハーフからスタンドオフに転じ、4年生のときに大学選手権に優勝、日本選手権も初優勝。新日鐵釜石ではV7を含む8回の日本選手権優勝に貢献する。日本代表キャップ24.
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