084: 80周年記念講演会「世界ラグビーの動向と日本のラグビー」(宿沢 広朗・元ラグビー日本代表監督/元日本代表強化委員長)

更新日:7月19日

2002年5月18日に開かれた「京都大学ラグビー部創部80周年記念シンポジウム」で、宿沢広朗・元日本代表監督が講演し、「京大にはラグビー創設者としての重い責任がある」「OBは表に裏にラグビーを支えてほしい」と期待を寄せた。要旨を紹介する。

京都大学ラグビー部創部80周年記念シンポジウムで講演する宿沢 広朗さん


京都大学ラグビー部80周年記念シンポジウム講演会

2002年5月18日(土)京都国際ホテル


〈記念講演〉「世界ラグビーの動向と日本のラグビー」

講師:日本代表強化委員長 宿沢 広朗氏


〈パネルディスカッション〉「学生ラグビーをいかに盛りたてるか」

パネラー:宿沢 広朗氏/慶應大学 上田監督/同志社大学 徳原ヘッドコーチ/東京大学 寺尾前監督/京都大学 市口監督/モデレーター 村上晃一氏(ラグビージャーナリスト)


京大ラグビー部80周年記念講演のパンフレット

 私は早稲田大学時代に一度、京都大学と全国大会で対戦したことがある。当時の早稲田は強かった。その後一時低迷し、近年また復活しつつある。

日本代表の監督時代に、大西鉄之祐・元日本代表監督にいろいろ意見を聞いた。私は大西先生のラグビーを踏襲したわけではないが、かなり参考にした。大西さんは、星名秦・元京大ラグビー部監督のラグビーを意識していると学生時代から思っていたが、代表監督時代にも強くそう感じた。

 日本のラグビーでは、星名ラグビーと大西ラグビーがずっといいものを作ってきたと思う。それを少しでも伝えていこうと、代表監督、そして今は強化委員長を務めている。

世界のラグビーも日本のラグビーも変わってきつつある。今日は、日本のラグビーが代表レベルでどういうことをやろうとしているのかを紹介する。


昭和47年(1972年)元旦の第8回全国大学選手権1回戦(秩父宮ラグビー場)の京大VS早稲田両軍チーム。中央は堤和久主審、その右に京大前田主将。前列右から二番目が宿沢さん。

昭和47年1月1日 秩父宮ラグビー場

9 ー 89

 <京大>      <早稲田>

石田徳治   P R    田原

杉山幸一   HO   高橋

平岡康行   P R    奥田

   松井泰寿   L O   中村賢  

 本間裕作   L O   津留崎

田代芳孝   F L    神山

中井哲治   F L    萩原

小屋了   N O8   増田

大喜多富美郎  S H   宿沢 

  吉川史彦   S O   中村康

八束裕   WTB   金指

前田真孝  CTB   藤井

湯谷博   CTB   佐藤

三浦安紀  WTB   堀口

平賀義彦   F B    植山



【ビジョンと4つのターゲット】


 日本ラグビーフットボール協会では、「ラグビー競技を誰からも愛され、親しまれ、楽しめる人気の高いスポーツにする」というビジョンと、そのためのターゲットを定めている。

ターゲットの第一は代表チームの強化で、ワールドカップに常時出場し、2007年にベスト8に勝ち残ること。

 第二は競技人口の増加、特に青少年プレイヤーを増やして、野球、サッカーとともに3大ボールゲームにすること。

 第三は競技力の向上。そのための指導者育成システムを確立すること。

第四は観客数の増加。競技場に足を運ぶ観客数を増やし、観客に感動を与えることに努力することだ。



【プロ化の必要性】


 このうち具体的な目標は、代表チームのベスト8入りだ。私たち強化部門はこれに向けていろいろな取り組みを始めた。

 代表チームの強化を目標に掲げたのは、それが起爆剤になると考えるからだ。世界のラグビーでは、北半球の6か国対抗を戦う各国と、南半球のニュージーランド、オーストラリア、南アフリカでプロ化が進む。6年ほど前に、世界のラグビーがオープン化してプロ化が加速した。

 アマチュアのラグビーは非日常的なものだ。たとえば京都大学の学生は学業が本業で、余暇としてラグビーをやる。社会人でも仕事の余暇、福利厚生の一環としてラグビーをやる。

一方、プロになるということは、ラグビーそのものが職業として日常的になるということだ。あらゆるスポーツで、一番強くなるのはプロになることだ。これは様々なスポーツで証明済みで、良い悪いではなく、現実に起こっていることだ。日本のラグビーのオープン化は世界から6年、後れを取っている。


 日本代表は昭和40年代、ジュニア・オールブラックスを破ったり、イングランドが来日して秩父宮ラグビー場で両チームともノートライの3対6の接戦を演じたり、当時としては輝かしい戦績を世界に示した。

 その後少し差が広がったが、日比野弘監督時代にウェールズ遠征のアウェイで24対29と追い詰める試合ができた。世界との差は広がったり縮まったりしていたが、世界がプロ化した近年は広がる一方だ。スキルや体力の差というよりは、プロとアマがやるということで大きく差が広がったと思う。

 相手にはプロ選手が入っているのに、こちらはアマチュアなので差が埋まらない。それはフィットネスに一番現れる。彼らは毎日練習して必要なフィットネスを維持し、筋力トレーニングやスタミナを十分つける。それに加えてスキルを高める。制度の問題で差が広がり、もはやスキル以前の問題になってしまっている。


 そこで、日本も昨年度からオープン化を導入した。英国や南半球の国々とは少し違う日本式で、日本代表に選ばれた選手だけを対象にしている。まず選手に所属チームから4か月間離れて日本代表の活動に専念してもらう。その間の報酬はラグビー協会が所属チームに支払う。選手たちには、試合の出場料や勝利ボーナスなどのインセンティブを別に直接、渡す。

昨年は代表のうち8人だけが専属契約を結んだ。今年は社会人の30人と専属契約し、3月から7月中旬まで代表専属で活動している。

 オープン化で、意識の差を埋め、そこからスキルや戦略の強化につなげたい。何をやっても「彼らはプロだから」という意識を解消したかった。インセンティブの資金について、選手には「ラグビー強化のために自分に投資してくれ」と伝えている。



【トップリーグの創設】


 世界のラグビー地図は、南半球の3か国が非常に強かった。それはニュージーランド、オーストラリア、南アフリカが「スーパー12」を創設したことが象徴している。3か国の12チームが毎週高いレベルで総当たりで戦い、その選手たちが国の代表選手としてプレーする。

 その後、英国がプレミアシップリーグを創設し、大成功した。英国人のほかにもオーストラリア、フランスなどの代表選手クラスもプレーしているからだ。イングランドが力をつけ、南半球と拮抗してきている。

 日本で本格的なトップリーグができれば、イングランド、フランス、スーパー12に次ぐ

ものになる。北半球の6か国と南半球3か国に続くような国々、すなわちカナダ、サモア、フィジー、アルゼンチン、ルーマニアなどではリーグがない。日本はオープン化では遅れたが、トップリーグでは第2グループの国々より先行できると考えている。

 トップチーム同士でより厳しい試合をすることが強化につながると考えている。



【ワールドカップでの戦い方】


 日本代表の強さは、選ばれた選手と監督・コーチだけではなく、ラグビー協会の加盟各チームの強さ、つまり日本のラグビーの総合力ではないか。先日、ある懇親会の席で「少なくともW杯予選で韓国に勝ってくれ」と言われ、その程度の期待かと寂しい思いをした。W杯でどういう試合をするかが、本当のターゲットだ。日本代表はW杯にずっと出場している。先日はサッカーJリーグの川淵三郎チェアマンに「サッカーよりラグビーの方が早くベスト8に行きますから」と言い切った。そこを見据えてやっている。


 第2回W杯(1991年)に代表監督で行った際、世界のラグビー関係者や英国のファン、ジャーナリストは、日本が1勝や2勝することにはまったく興味がないと感じた。そうではなくて、日本がどういうラグビーをするかを見ている。体の小さな日本が、どういうラグビーで大きい人たちと戦うか、それは評価できるものかどうかが見られている。スコットランドなど「自分たちは小さい」と思っているチームは、日本の戦い方を「自分たちに参考になるのでは」という目で真剣に見ている。

 ラグビーの最高の舞台がワールドカップで、日本のラグビーが評価されることは、勝つのと同じぐらいの意味がある。そういうラグビーを作るのが我々の役目だ。



【戦力、戦略、環境】


 ラグビーの強化で一番大切なのは、戦力だ。そして戦略、環境の3つだ。早稲田大はこれから強くなるだろう。まず戦力が充実してきた。2番目に清宮克幸監督が非常によいラグビーをやっている。さらに今年から東伏見を離れ、新たに上井草にグラウンドを作った。つまりすべてがそろった。

 次にすべきはラグビーの普及だ。スター選手が生まれて、それを目指す選手が出てきたり、トップリーグがいい試合をして、ラグビーをもっと見よう、やろうという人が増えることを目指している。

 京大にも、まず戦力面では学生に勧誘をがんばってもらいたい。京都大学として運動部の数をもっと絞り、その中でぜひ、ラグビーを学生に選んでもらいたいものだ。環境面では、日本でトップの国立大学なのだから、芝生のいいグラウンドをOBでつくっていただきたい。これはラグビーを80年やっている大学の責任だと思う。サッカーの川淵さんが100年計画で学校のサッカーグラウンドを芝生にする、と言っているように、環境が大切だ。伝統ある京大には率先して模範を見せてほしい。


 トップリーグのチームや大学選手権に出場するようなチームには、子供たちのラグビースクールを運営する義務があるだろう。その後、中学・高校につなげていくのはラグビー協会の仕事だが、子供たちの競技人口を増やすため、皆様にもお手伝いいただきたい。普及が次の重要なものだろう。


 極端な言い方をするが、多くの人に見てもらうという意味で、ラグビーは商品だとラグビー協会は考えている。日本では、日本代表があり、トップリーグ、大学、高校、ラグビースクールがある。これらが全部商品で、いかにいいものにしていくかが、われわれの責任だ。

そのためには戦略的に他のスポーツより優れていることが必要だが、加えて、いいものを早く皆様に届けるスピードの優位性が求められている。



【大学ラグビーについて】


 大学ラグビーは日本ラグビーの中間というか、震源地のような位置づけではないかと思う。大学ラグビーが盛んになってトップレベルのチームにどんどん人を供給する。大学がいいラグビーをすることによって、それを目指す高校生が増える。そういう意味で、大学は非常に重要な位置づけだ。

 現在のスポーツ界で、大学が中心になっている競技は数少ない。サッカーや野球では大学は空洞化している。ラグビーは、大学が今でも一番人気があるという特異性をアドバンテージとして最大限に使う必要がある。現在の日本代表を見ても、ほとんど大学卒の選手だが、そういうナショナルチームを持っている競技は他にない。これを維持すれば、高校生、中学生、小学生と裾野が広がっていくだろう。


〈パネルディスカッション〉「学生ラグビーをいかに盛りたてるか」

パネラー:日本代表強化委員長 宿沢 広朗氏/慶應大学 上田昭夫監督/東京大学 寺尾寛監督/同志社大学 徳原永宅ヘッドコーチ/京都大学 市口順亮監督/モデレーター 村上晃一氏(ラグビージャーナリスト)(肩書きは当時)




【京都大学へ】


 京都大学には、大学ラグビーの創設者の一員という重い責任がある。「これが京都大学のラグビーだ」というものを作り上げてほしい。また、ぜひ全国大会に出場し、いいラグビーを展開してほしい。

 もう一つは、京都大学のOBには各界で活躍し、いろいろなところでラグビーを支援してほしい。企業で重責を担う方が多いので、表に裏にラグビーを支えてほしい。これもラグビーの総合力という意味ではたいへん重要なので、ぜひご活躍いただきたい。




京大ラグビー部80周年記念シンポジウムの様子を伝える新聞記事(2002年5月19日)

 

トピックス/京大ラグビー部創部百周年記念 シンポジウム開催及びウェビナーのご案内


来る2022年7月10日(日)13時より、創部百周年を記念してシンポジウムを開催いたします。無料のウェビナーをご用意しておりますので、ぜひご参加ください。

〜シンポジウムテーマ〜

「学生スポーツとしてのラグビーが目指すべき将来像」


日時:2022年7月10日(日)13:00〜 ​場所:京都大学時計台記念ホール ​無料ウェビナー同時開催



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