ラグビーの楽しさを学生たちに伝えたい。そして、人としての成長につなげたい。二人の理想とする監督像は、時代を超えて不変だった。
▼三好 郁朗・溝口 正人 師弟監督対談動画その2はこちら↓
ラグビー十則
(溝口)「ラグビー十則」について、監督になって考えるようになった。上の代のOBの方にもいろいろ聞くが、「わからない」とおっしゃることが多い。岩前さんがどんな方だったのか、また、いろんな意味が隠されているんじゃないか、というふうにも思っている。
(三好)岩前さんは中学の先輩でもある。指導者にはいろんなタイプがある。怖いから言うことを聞く人もおれば、ラグビーだけじゃなく人生を学ぶ人もいる。私はフランスのラグビーの教科書から、学生が興味を持ってくれそうなプレーを抜き出したりした。岩前さんからラグビーを教わった覚えはあまりないが、生き方のようなものを学んだ。そういうタイプの方が京大には向いているのかもしれない。また、正直に言うと、ラグビー十則にはあまり影響を受けていない。
(溝口)十則は、人によっていろんな解釈ができるようにしてあるのかも、とも思う。小田元監督の教え子がNZにも似たような言葉がある、と指摘してくれたことがある。
(三好)小田さんは十則に大きな影響を受けている。私はどちらかというと、そういうのはあまり好きじゃないし、不肖の弟子。皆それぞれに受け取ればいい。文学をやっているからよけい感じるのだが、十項目は同じ論理のものが並んでいないし、一貫していない。何を実現するために作られたのか。道徳的な思い付きのようにも思えて、どちらかというと反抗的に受け止めていたかもしれない。ただ、だんだんと「要するにこういうことかな」と考えるようになっていった。
(溝口)4番目と5番目は練習中によく使っている。「With Anticipation」「Without Hesitation」だ。3番目の「Always On the Ball」は、ラグビーボールだと思っていたが、「油断しない」のような意味があるとも聞いた。「極意 無」は「無(む)」と読むのか、「なし」と読むのか。謎めいている部分が多い。
(三好)岩前さんから直に説明を受けたOBはほとんどいないのではないか。岩前さんの存在が大きいから、皆なるほどと思って、いつの間にか大きくなったが、公式の解釈はないだろう。こんなことを初めて話した。
(溝口)でもその方が京大らしくて、いいかもしれない。好きに解釈して好きに使えばいいのだろう。
監督とはどういうものか
(三好)ラグビーというスポーツを通じていかに大きな人間になるか。学生がいかに学生らしい生活を送るようにするか。これしかない。
(溝口)学生にラグビーを教えようというおこがましいことは考えていない。ラグビーは楽しい、それは自由だから。こんなスポーツはほかにない。とはいえ、一定程度は決めごとがないと自由にはできない。勝つために気持ちよくしんどい練習を学生ができるようにのせてあげるのが仕事、と思っている。日本を背負って立つ若者がラグビーを通じて立派な社会人になって世の中の役に立てるように、少し間違っていたら軌道修正してあげる。学生たちと熱い思いをさせてもらって、楽しませてもらっている。
三好先生の前で、自分が監督をやっている、というのは恥ずかしい。追いつこうなんて思ったことはないが、自分なりのやり方で、部に少しでも貢献できたら、と思っている。監督を終えた時に、三好先生に「よくやった」と言ってもらえたらうれしい。
(三好)監督はかくあるべき、なんてわかっていたら苦労しない。与えられた条件のなかで、4年間終わった時に、「ラグビーをやってよかった」という思いが残るような指導をしたい、と思っていた。それが唯一の基準だ。星名さんや岩前さんのような人たちがいたクラブにいる誇りを持つのはいいが、そのレベルまでいかなければ、と言われるのは楽しみがなくなる。学生にはぜひ、ラグビーを楽しんでほしい。そして、昨年より今年は一つでも上、と思って頑張ってほしい。
(2021年6月6日収録@京都大学宇治グラウンド・クラブハウスにて)
取材:奥村健一(H2/LO、読売新聞)、山口泰典(H4/No. 8、読売新聞)、但馬晋二(H24/ FL、読売テレビ)
▼三好郁朗さんのプロフィール
1939年生まれ。1980~82年と89~92年の2度にわたり京大ラグビー部監督。京都大学名誉教授(フランス文学)。京大文学部卒、64年にフランス政府給費留学生(パリ大学)。京都大学総合人間学部長、副学長、京都嵯峨芸術大学学長を歴任。フランス政府教育功労賞受賞。2015年秋に瑞宝中綬章を受章。
▼溝口正人さんのプロフィール
1966年、神戸市生まれ。1990年京都大学農学部農林経済学科卒、(株)リクルートコスモス入社。現在は(株)ビケンテクノ取締役として、都市開発事業を中心とする不動産事業全般に従事。ラグビーは中学3年の夏に同級生と見よう見真似で始め、兵庫県立神戸高校、京都大学で主将。高校3年時はオール兵庫でも主将を務めた。京大では一回生からレギュラー。2016年のCリーグ降格を機に翌2017年、監督就任。学生の自主性に任せつつ明るい雰囲気を醸してAリーグ昇格を目指す。
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