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041: 【創世記編4】動き出した天狗たち(S55 真田 正明)

 まだ三高にも入っていない京都一中卒の浪人生、香山蕃が大正5年(1916年)、京大生らを集めてつくった天狗俱楽部は、岡崎の平安神宮前にあった広場で練習を始めた。結成後数か月で対外試合に臨み、初戦の神戸外人には3-14で敗れた。以来、天狗倶楽部は何度も神戸まで出かけているが、それには試合以外の理由もあった。グランドキーパーをしていた日本人から、こっそり古いボールをもらっていたのである。


 神戸市役所の南に東遊園地という公園がある。阪神大震災後は、ルミナリエなどの追悼行事が行われている。このあたりはかつて外国人居留地で、社交クラブや運動場があった。神戸外人の本拠であり、ラグビーのみならず、サッカーや野球など西洋のスポーツが日本に広まる拠点だった。当時、関西で唯一の芝生のグランドがあり、三高や同志社が胸を借りに訪れ、慶応もしばしば遠征してきた。神戸、横浜の外人同士の定期戦は1902年から始まっている。

東遊園地。兵庫県神戸市中央区加納町にある神戸市管理の都市公園(写真:一般財団法人神戸観光局)

ここで山本由太郎という人物が、13歳のころからグランドキーパーをしていて、日本のチームが古ボールをねだると「ナイショ、ナイショ」といって渡していた。身長が180センチほどあり、ラグビー、サッカーなど何をやっても外国人に引けを取らす、テニスでは外人女性のパートナーを務めていたという。日本でのラグビー普及の陰の功労者だろう。

香山蕃は「私たちが神戸外人クラブにゲームに行くたびに感銘したことは、どんなに激しいゲームをやってもタイムアップの笛がなれば、手を握り合って健闘を祝し合う美しい友情であった。シャワーをともに浴び、ビールとサンドイッチのレセプションで楽しくお互いのプレーや生活を話し合い、歌を合唱した。そこには勝敗についてのなんのこだわりもなかった」と振り返っている。神戸外人からスポーツマンシップも学んでいた。


 天狗俱楽部は、京大天狗倶楽部などとも称され、京大学生のチームと誤解されていた。神戸外人との初戦を伝える大阪毎日は「京都天狗俱楽部は京大学生により組織せられ、中学、高等学校時代の蹴球選手をも多数含めることとて、チーム創立以来未だ数か月を経ざるも既に京都の各学校とはしばしば練習試合をなし……」と書いている。

1917年3月には京大のチームとして三高とともに岡山に遠征した。香山が、クラブに引き入れた安達士門(1921年卒)ら、六高出身者の地元でのラグビー普及を狙ったもので、中国民報(現山陽新聞)の招待だった。同紙の社告には「中国体育会は(中略)団体的戦闘遊戯として最も理想的特質を有する英国国技ラグビーフットボールを世に紹介すべく三月四日(日曜日)京都帝国大学及び第三高等学校蹴球部選手を招聘し……」とある。午前と午後に2試合をし、7-11、0-12でいずれも三高が勝った。

大正6年(1917年)3月4日、岡山で行われた ​天狗クラブ(京大)対三高の試合。


 当時三高に入ったばかりの谷村敬介(1922年卒)は、こう書いている。「兄の京大学生順蔵(1917年卒)は、天狗俱楽部の一員として参加した。帰宅後、私に『岡山一流の旅館三好花壇に泊まり、東山グラウンドまで人力車を連ねて往復した。見せ物扱いに恥ずかしかった』と語った」。

この試合に京大として参加し、京大ラグビー部名簿で名前が確認できる人は、次の通り。

安達士門、安楽兼道(1918年卒)、早川荘一郎(1921年卒)、谷村順蔵、宇野延次(1919年卒)。三高側にも安藤明道(1920年卒)、佐伯信男(1921年卒)の名が見える。

天狗倶楽部は1919年1月に、大阪毎日主催の第2回日本フートボール大会にも「京大」として参加している。この大会は全国高等学校ラグビー大会の前身である。この年は慶応、同志社大、同志社中、京大、三高、京都一商の6チームが参加した。京大は同志社中と3-3で引き分け、次の試合を棄権した。

同じ年、関西在住の慶応OBや同志社などの地元OBが関西ラグビークラブをつくり、そのチーム名を「オールホワイト」とした。天狗俱楽部はこのオールホワイトとも戦っていて、翌年の記念写真には「1920K.I.U」と書かれているという。

天狗俱楽部は4年間活動し、1919年に同志社混合軍と引き分け、神戸外人には2勝3敗の戦績を残した。1922年に正式発足する京大ラグビー部の基礎をつくったと言って過言でない。


左)大正8年12月14日、京大クラブ対オールホワイト戦のスクラム(三高グラウンド)/右)同試合、谷村敬介(左端)の突進

(S55年卒 真田正明)

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