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016: ラグビーが教えてくれたこと(山中伸弥・ iPS細胞研究所所長/特別インタビュー1)

更新日:2021年11月26日

"To The NEXT 100 Yrs" 次の100年へ。

《特別インタビュー》


京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥教授は、神戸大学時代にラグビー部に所属していた経験を持つ。ノーベル賞の受賞につながった研究には、ラグビーで学んだコミュニケーションや組織作りの経験が大きく生きたそう。日本の医学研究をリードする山中さんに、ラグビーの魅力や、コロナ禍でラグビーをするかどうか悩む学生への助言を聞いた。



▼山中伸弥教授(iPS細胞研究所所長)の「ラグビー が教えてくれたこと」動画はこちら(21分)




――ご自身でもプレーされた経験からラグビーの魅力は何だと思いますか


ラグビーは要素の多いスポーツで、色々なことが要求されます。走力はもちろん、キック力、ジャンプ力、腕力など全てのスポーツの要素が必要とされる。一番必要な要素はポジションによって違いますが、それが他のスポーツのように固定しておらず、ゲームの状況によって違う役割もどんどんやっていかないとダメです。高校の時に体育の授業で初めてラグビーをしたのですが、それ以降ずっと夢中というか。こんなに面白いスポーツがあるんだと思ってきました。



――2019年のワールドカップ日本大会も現地でご覧になったのですか


テレビで見ている以上に、世界のトップの戦いというのは本当に鳥肌が立つといいますか。相手チームのプレーにも鳥肌が立ちますし、ジャパンのプレーにはもちろん必死になって応援しました。



――プレーされていた頃の思い出を教えてください


チームとしては医学部の大会に出ていました。西日本と東日本に分かれてやるものです。 4回生の時に決勝まで行きました。その時は大阪でやったのですが、残念ながら花園は改修中で使えずに万博公園ので決勝をやり、初めて芝生のグラウンドで試合をしたんです。芝ってタックルをしてもされても本当に気持ちがいいと思って、全然土と違うなと。試合は惜敗で準優勝になりましたが、本当にチームとしてはいい思い出となりました。個人としてはけっこう怪我との戦いで、骨折を何回したか分からないですし、それもいい思い出というか。レベルはそんなに高くなかったですが、それなりに一生懸命やりました。あの時期、勉強はあまりせずに、本当に一生懸命ラグビーをやったというのが思い出です。



――ポジションはロックで4番だったそうですね

神戸大学医学部時代の山中教授(1985年)

僕は背が176センチだけど、チームで1番くらい高かった。5番の選手は180センチくらいありましたが。当時は(ラインアウトの)リフティングが反則だったので、本当に自分のジャンプ力で(跳んでいた)。対面の選手が僕より低いと言うことが1度もなくて。だからラインアウトからきれいなボールを出した覚えがあまりない。そういうチームでした。


――ラグビーの前にやっておられた柔道の経験も生かしていたのですか?


うちはモールもラックも弱いチームで、そこからいかに抜け出して突進するかに生きがいを感じていました。バックスにいいボールを出そうという思いより、いかに自分が目立つかという、とんでもないラガーマンでした。




――「山中さんはパスをあまりしなかった」という後輩の方の談話を読んだことがあります


パスをしたことはあると思うのですが、何年か前に後輩からもらった年賀状に「山中さんと3、4年一緒にやりましたが、パスをもらった覚えもした覚えもありません」と書いてありました。ひどい後輩です(笑)。



――タイプで言えば、昨年現役を引退した大野均さんに似ていたのでしょうか


同じというと失礼ですが、モールから抜け出して決勝トライを挙げたということもありました。バックスにはずいぶん怒られましたが、フォワードリーダーからは良くやったと言われました。




――特にモールやラックが楽しかったのですか?


バックスにスクラムなどからボールを出して、サインプレーなどでゲインする。そういうのが面白いというか。自分で行くのはおまけみたいなもので、年に何回かあるかないかでした。 ずっと柔道をやっていましたが、柔道は個人スポーツですから。ラグビーを始めてチームプレーにいつも魅力を感じていました。



――チームプレーのどういう点が魅力的だったのですか?

フォワードとバックスとの役割分担がある。チームの状態が悪い時はフォワードとバックスの仲が悪いんですよ。お互いに負けたのはそっちのせいだという感じで。でも歯車がかみ合って勝ちだすと仲が良くなってきて、好循環が生まれるんですけども。

今やっている研究でも、けっこう役割分担があるんですね。例えば患者さんに移植するためにiPS細胞を作っているんですけど、細胞を作るグループと評価するグループ、場所を管理するグループと3つくらいあります。その連携がうまくいっている時はコミュニケーションも取れますが、良い細胞ができなかったりするとお互いに相手を責めあうようになってしまいます。

そうしている間はダメで、うまくいかない時にいかにフォローしあえるか、そういう組織になれるかどうかが、「ヘボチーム」と強いチームとの分かれ目だと思います。僕たちの時代は強いチームにはなれかったですが、卒業した後に西日本の医学部の大会で優勝したり、後輩たちがずいぶん強いチームにしてくれました。



――ワン・フォア・オール、オール・フォア・ワンの精神は研究にも通じるところがあるのですね


本当にラグビーと一緒だなと思っていて。平尾誠二さんだったらこういう時にどう言うかなとか考えています。



――研究における良いチーム作りのポイントとは?


結局、ラグビーでも今の仕事でも普段のコミュニケーションだと思う。いかに面倒くさがらずに自分からコミュニケーションを取るかというのが、チーム作りにおいても今の組織づくりにおいても非常に大切。それぞれの人の力を1+1した時に、それが3になるか、1とか0.5にしかならないという違いは、普段からコミュニケーションをどれだけ取れるかの違いかなと感じている。



――コミュニケーションの機会をどれだけ多く取るかが大事ということですか?


コミュニケーションは機会を多く取ることも大切だけど、やろうと思わないといけない。照れくさいというか、言わんでも分かるやろうとなるとコミュニケーションは進まない。分かっているやろうけど言う、その辺がすごく大切。現役の時はそれができていなかったなと思う。

私はアメリカでも活動をしています。今、コロナで10ヶ月間、アメリカに行けていないけど、アメリカの組織はコミュニケーションがすごいんですよ。コミュニケーションというよりも褒め合いですね。「良くやった」とか、「ここが素晴らしい」とか。

日本だと「言わなくても分かる」とか思ってしまって、失敗した時とかにだけ言ったりしてしまうんですけど、向こうの人を見ていると本当に恥ずかしいくらい褒める。「誰々のおかげで」ということを普段から言う。多分、夫婦間でもそうなんでしょう。60歳とか70歳でも何かあるごとに「I love you」とか言い合っていて、横で見ていて恥ずかしいくらい。そういうコミュニケーションがあるからいいんだなというのもすごく学びましたね。

チームも普段から責め合うだけじゃなくて、うまく行った時に褒め合う、recognizeすると言うか。ラグビーでも仕事でもすごく共通しているし、ラグビーはそういうことをすごく学ぶことができる。ラグビーは僕達の頃と比べて、スポーツとしてのレベルもすごく上がっていると思う。プロ選手もたくさんいるけど、コミュニケーションとか組織づくりでも、僕がプレーしていた30~40年前よりすごく進化していると思います。

例えばジャパンなんてメンタルのコーチがいたり。あんなことは僕たちの時はありえないことだった。単に体力とか競技力だけじゃなくて、組織論やコミュニケーションもすごく向上しているなと感じます。僕たちの時もラグビーはすごく後々のためになったけど、今はそういう意味からもすごくその後の人生に向けて良い勉強や経験になるだろうなと、元ラガーマンから見て感じています。



――ラグビーをされていた経験はノーベル賞の受賞にもつながっていますか?


ありますあります。研究もチームプレーと一緒で、一人じゃできないから役割分担をする。運、不運もあって、同じように頑張っているけど結果がどんどん出る学生さんもいれば裏目裏目に出ちゃう場合もあったりして。でも同じようにみんな努力して、全員の努力の成果で iPS細胞もできましたし、大きなプロジェクトも進めています。いかに一人ひとりじゃなくてチームでできるかというのはすごく苦心していましたね。ラグビーの経験というのはものすごくありがたかったです



――今、新型コロナウイルスで全国の学生がラグビーをなかなかできない状況にあります。コロナ禍でラグビーをするときに気をつけることは何でしょうか?


コロナウイルスはグラウンドとか芝生にはいないのです。人間からしか広がらないので、ラグビーをやったからといってそこでウイルスは自然発生はしません。ラグビーをしていない時に、いかにウイルスをグラウンドとか合宿所等に持ち込まないかが一番大切です。今は本当に大変で、この冬はみんなができる対策を取って何としても乗り越える必要がありますが、ワクチンもかなり進んできています。次のラグビーシーズンは今年とは全然違うことになっていると私は信じています。

だから、今からだと(ワクチンなどで状況が改善するまで)もう1年間もないと思う。高校生活は3年間ですし、大学生活は4年間、医学部だと6年間あります。言ってみれば、長い学校生活の割と短い期間のコロナの問題で影響を受け、残りの学生生活までマイナスの影響を受けるというのはすごくもったいない。必ず状況は変わります。特に外からウイルスを持ち込まないということを気をつけてやれば、決してラグビーだから感染するとか、ラグビー部が特に危ないということは全然ない。ラグビーでもどのスポーツでも一緒なんですけど、ぜひコロナに影響されずにもっと長いスパンで決めてほしいなと思います。



――京大ラグビー部が2022年に100周年を迎えます


100周年、本当におめでとうございます。日本でも最も伝統のあるチームの1つですのでますますのご発展をお祈りしています。高校で活躍した選手をセレクションで採ってくることはなかなかできないと思いますが、ラグビーは先ほど言ったように非常に色々な要素があり、戦略も大事になる。見事な戦略や、体力は工夫した練習でずいぶん伸ばすことはできるので、ぜひ強豪校に一泡吹かせる活躍を楽しみにしております。


(2020年12月17日/ZOOMにて収録)

取材:谷口 誠(H14/FL、日本経済新聞 記者) 撮影:西尾 仁志(H2 /CTB)



▼山中伸弥さんのプロフィール

1962年、大阪府生まれ。神戸大学医学部時代に3年間、ラグビー部に所属した。1987年に同大卒業。1993年に大阪市立大学大学院医学研究科博士課程修了。米グラッドストーン研究所博士研究員などを経て、2004年から京大再生医科学研究所教授。2007年にヒトの皮膚細胞からiPS(人工多能性幹)細胞の作製に成功した。2010年から京大iPS細胞研究所長。2010年に文化勲章、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。



▼学生のみなさんへのメッセージ動画はこちら(4分)


●全国のラグビー関係者のみなさまへ

山中先生のご厚意により、「学生のみなさんへのメッセージ動画」(4分間)は、ラグビーのPRや部員勧誘のために自由にご活用いただけます。ウェブサイトに動画のリンクを張ったり、SNSなどでぜひご共有ください。


※山中先生からの追加のメッセージです。

「この動画は2020年12月中旬に撮影されたものです。2021年4月現在、日本でも変異型の新型コロナウイルスが蔓延しており、20歳以下の若者にも感染者が増加しています。ワクチンが普及するまでは、ラグビーの練習や試合においても、これまで以上に感染対策に気を付けてください。」




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