036: 私とラグビー(S36 野依 良治・2001年ノーベル化学賞受賞/特別インタビュー1)

更新日:7月27日

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《特別インタビュー》

ノーベル化学賞受賞者の野依良治さんは、京大時代にラグビー部に所属していた。「心技体が凝縮したスポーツ」であるラグビーからは、その後の研究者人生にも通じる多くのことを学んだと振り返る。京大時代の思い出に加え、ラグビーの魅力や人格形成に及ぼす効用について語ってもらった。




――京大ラグビー部での思い出を聞かせてください。

私はラグビーから、人生80年以上を生きるために非常に多くのことを学ばせてもらいました。しかし、私はそのラグビーの厳しさについていけなかった落ちこぼれでもあり、あまり多くを語る資格はありません。

私は中学・高校では嘉納治五郎の講道館柔道を習い、神戸市や兵庫県の大会でそれなりに活躍をしていました。体力、気力にはいささか自信があり、勇壮果敢をもって尊しとしていました。その典型はラグビーです。当時は八幡製鉄とか近鉄の全盛期でした。京大に入り、「ラグビー部は昭和初期に全国制覇をした伝統がある」と聞き、入れてもらったわけです。しかし、ラグビーは心技体が凝縮したスポーツで、体力だけを取っても足の力や腕力、ジャンプ力など総合的な力が必要ですが、私にはこれが全く不足していました。特に持続的な運動力が 要求についていけません。夏の松本での自衛隊合宿が思い出に残っていますが、それも大変つらかったですね。

私は二軍の5番・ロックで、他大学との練習試合などでもあまり活躍できなかった。結局、ラグビーはお前の気力体力では無理だ、学問に戻れと、1年ほどで厳しく教えられたのが実情です。当時の部員の中には後に日本ラグビー協会の副会長も務められた和田文男さんもいらっしゃった。選手生活を全うした人達を心から今でも尊敬しています。

 多くの世界でも通じることでしょうが、一流の選手は才能だけではなく、心がけや努力が違う。こういったことは自分で競技を体験することによって初めてわかる。生半可のことでは絶対、一流にはなれない。京大ラグビーは、謙虚に生きなければいけないということを私に教えてくれました。

1958年松本自衛隊の夏合宿のあと、「美ヶ原」を訊ねて。左から野依良治さん、和田文男さん、野田重雄さん


――ラグビーの魅力は何ですか?

体と体でぶつかるわけですから本当の友達づきあいができるし、その人の人柄を知ることもできる。そういうところがラグビーの良さじゃないかと思っています。



――先生がお考えになるラグビーの価値は?

スポーツ全般に通じることですが、厳然とあるルールの下でフェアプレーで競うというところですね。厳しく心技体を鍛えることによって、折り目正しく、しかし明るくたくましい有為の人間、そして社会を作るということではないかと思います。

ラグビーは番狂わせが少ない。まさに実力がものを言う世界。チームの実力というのは選手たちの基礎運動体力、運動能力プラス、戦略的なチームワークではないかと思う。ワン・フォア・オール、オール・フォア・ワンでこの精神を実践していくのみというところでしょう。しかし、力が全てと言ってしまえば身もふたもない。楕円球の不規則バウンドする可能性というのは、弱者への唯一の思いやりかなと。こういった不確実性が、人生にとって非常に大事じゃないかと思っています。その結果として、ラグビーの厳しさというものが若者たちの心に何かを植え付けるのだろうと思います。

ラグビーは名選手だけじゃなく、多くの政界、経済界のリーダーたちを育ててきたと思います。科学でも IPS細胞 の発見でノーベル賞を受賞された山中伸弥さんなんかもその1人です。

もう一つ強調しておきたいことは、ラグビーはワールドカップに象徴されるようなラグビー界、競技者たちだけのものではないことです。観戦者に感動を与えて、ワン・フォア・オール、オール・フォア・ワンの精神をできるだけ広く社会に浸透させることが大事だと思います。グローバル化によって全ての人が世界中でつながる傾向にある。英語ではインクルーシブ、包摂化のことを言いますが、もっともっと老若男女、全ての人たちが宗教、人種、国籍の違いを超え、多くの人が参加することが望ましいと思います。

ラグビー界を通して視野を広げるためには、もっと多くの人がプレーを楽しむ必要がある。コロナ禍の後の世の中がどうなるか、不透明ではありますけれども、出来るだけ多くの人が安全に競技を楽しめるようにしてほしいと思います。グラウンドを整備して子供たちにも機会を与えたいし、7人制、女性のラグビー、最近では車椅子のラグビーもある。無差別級だけでなく、体力別、年齢別などの試合がこれからあってもいいと思っています。できれば日本人が活躍できるような新しいラグビーも皆さんで工夫をされるといいと思っています。



――同じくノーベル賞を受賞された、京大IPS細胞研究所の山中伸弥所長とも非常に親しくされていると聞きました。

山中さんと私は三つの共通点があります。1つは若い時に神戸で学んだいうこと。第2にラグビーを経験したということ。第3に寅年に生まれた。この三つが揃うと、ひょっとしたら幸運の女神が訪れてくれるかもしれないと考えます。あの山中さんは非常に立派なラグビーの精神も持っておられるし、真っすぐな科学者。それからお人柄がいい。こういった方に世の中をリードしていただけるのは非常にありがたいと思っています。山中さんとは非常に気持ちが通じ合っていると思います。


取材:谷口 誠(H14/FL、日本経済新聞 記者)

撮影:西尾 仁志(H2 /CTB)

(2020年3月22日/ZOOMにて)



▼野依良治さんのプロフィール

1938年、兵庫県生まれ。京大時代は2回生までラグビー部に所属した。1963年京大大学院工学研究科工業化学専攻修士課程を修了。米ハーバード大博士研究員などを経て1972年に名古屋大理学部教授に就任した。2003~2015年は独立行政法人(当時)理化学研究所理事長、2015年からは国立研究開発法人科学技術振興機構研究開発戦略センター長を務める。2001年には、鏡像関係を持つ「キラル分子」の一方だけを作り出せる「BINAP触媒」を開発した功績でノーベル化学賞を受賞した。2006~2008年には教育再生会議座長も務めた。


▼野依良治さんの「私とラグビー」動画(約11分)




▼ラグビー関係者、学生のみなさんへのメッセージ動画はこちら(約5分)

●全国のラグビー関係者のみなさまへ

野依先生のご厚意により、「学生のみなさんへのメッセージ動画」(約5分)は、ラグビーのPRや部員勧誘のために自由にご活用いただけます。ウェブサイトに動画のリンクを張ったり、SNSなどでぜひご共有ください。

https://youtu.be/9IKeJEWiTek


>インタビュー2へ続く


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