037: ラグビーに期待する10項目(S36 野依 良治・2001年ノーベル科学賞受賞/特別インタビュー2)

最終更新: 3日前

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《特別インタビュー》


 ノーベル化学賞受賞者の野依良治さんは、これまで教育や社会問題について様々な提言を行ってきた。ラグビー界の将来、日本社会の行く末、人材育成の方向性・・・。今回のインタビューでも、京大時代のラグビー経験を踏まえた本質的な指摘が数多くあった。その内容を10項目に分けて紹介する。



1.準備を怠るな

科学とラグビーは目的が大きく違うけど、ともに言い訳は通じません。自分自身が頼りであり、修練を積むことがまず個人の責任だというも同じです。フランスのパストゥールという天才科学者は「幸運の女神は十分に用意できた人だけに訪れる」という名言を残しています。この幸運を呼ぶ能力を磨き、偶然と思えるような出来事を逃さずに捉えるための用意が必要ではないでしょうか。

特に最近は天才による独創的な研究だけでなく、多くの人が関与する「共創」が大事になってきています。ピンチはチャンスといいますが、計画通りに進んでいれば平板で何も面白くない。常識的な成果しか生まれない。うまくいかなかった時、壁にドンとぶつかった時に、そこに問題があるということを教えてもらえるわけです。それを乗り越えれば大きな成果が現れる。ラグビーでもスイスイと得点している時にはあまり面白くないんじゃないですか。



2.自学自習せよ

これからは未知への挑戦や、創造性が常に求められるのだろうと思います。秀才は分別力を持っているので、どうしても安全性を求めがち。創造的、クリエイティブな成果を上げるためには、むしろいい頭ではなく、強い頭、自学自習の人が必要です。「千万人といえども吾往かん」という気概を持つひとは稀ででしょうが、時代を開く人はしばしば反権威、反権力の人たちです。

大事なのは価値=バリューであって、価格=プライスではない。物事を判断する力がないから価格で物事を決めるのです。しかし、高い値札がついていてもいいものとは限らない。チームが勝利するためにいかに連携・協力して向かうのか。組織の指導者はチーム内に強い動機づけを与えることが必要です。保有する力をいかに機能的に総合化すれば勝利できるか。全員で常に工夫しづける習慣が、未知と不可能への挑戦を生み、時にはそれが成功をもたらす。学生選手はこの試みの実践の場の中心にいるわけですから、コーチに言われるままでなく、この共同作業に積極的に参加していかなきゃいけません。



3.ワン・フォー・オールの精神を広げよ

ラグビーで最も大切なことは、ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワンの精神だと思います。この精神は個人と社会、組織と国家の関係にも通じることだろうと思います。この精神は、国家と人類社会に拡張すべき理念です。なぜなら、世界は米中の政治イデオロギーの対立、軍事経済の抗争、覇権争いのさなかにあります。世界に競争はつきものですが、連帯なくして困難の克服はありえません。一方、残念ながら世の中は分断に向かっています。そういった意味で、ラグビー精神を改めて広げて普及していかないといけない。テレビで国際試合を放映する時なども勝ち負けではなく、この言葉をいつも広く伝えなければいけないと思っています。



4.異質であれ

桜軍団(ラグビー日本代表)の目標は、偏狭な国粋主義を捨て、日本ラグビー史上最高の瞬間を作るということだったと思います。国境を越えて心をひとつにし、ジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ、リーチ・マイケル主将の下でどこよりも厳しい訓練を積んで自信を持って試合に臨んだ。そしてベスト8を達成した。目標実現に向けた努力に大いなる敬意を捧げたいです。

日本代表の活躍はラグビー界に限ったものではなく、ぬるま湯に浸っている日本社会の覚醒に役立ったと思っています。国際競争に勝つにはどうすべきか、外国籍の人たちの協力がいかに大事か。もはや、多くの物事が日本人が一丸となるだけでは到底、間に合わないということです。

産業経済界でも、科学界でも、世界で戦うというのはこういうことになんだと日本代表は示してくれました。つまり、同質のものの足し算ではなく、異質のものの掛け算だということです。現代の日本社会で、この桜軍団ほどの覚悟を持って努力している企業、大学が本当にあるでしょうか。19年のワールドカップは日本における組織のあり方に対して、一つの範を垂れたと思っています。

ラグビーワールドカップの精神をもっと国全体のために広める必要がある。これは日本の競争力だけでなくて、協調力を著しく高めることになると思っています。ラグビー精神を持った人が社会の各界を指導していく日が来て欲しいです。



5.グローバルな視野をもて

異なる文化、異質の人と出会うことでひらめきが生まれることが多い。それには海外への武者修行が一番有効です。ラグビーの世界標準の環境がどうなっているかということを学ぶことは大変大事です。しかし、ただそれを真似するだけでは意味がない。海外に行くことは日本や日本人というものを見つめ直す機会にもなると思います。現実を直視した上で日本らしいラグビーを作る機会になれば素晴らしい。イギリスに行けば人脈が豊かになるでしょうし、大学を卒業しても一生の宝になります。こういった活動の積み重ねがラグビーを越えて日本の外交力の助けにもなると思います。

日本がまず進めるべきは学生、生徒の交換でしょう。国を越えて個人的な信頼関係をつくることは、国にとっても将来の最大の安全保障になります。これは長くサイエンスの世界に生きてきた私の揺るがない信念です。


海外に行っても、真似だけをしていてダメです。指導者、選手も良く考えて何をやれば世界に伍してやっていけるかを考えるべきじゃないでしょうか。国際化=インターナショナリゼーションとは、それぞれの国が制度や文化を堅持しながら国の際を介して相互に関係するということ。一方、グローバル化は世界が一体化することです。しかし、大学というものが全く世界標準とかけ離れ、外国から孤立した存在になっています。村社会というか、同質の人の群れを作っているに過ぎません。つまり桜軍団のように、色々な才能を集めた組織、つまりチームになってない。

グループというのは群れ、チームは組織なのです。グループというのは自然発生的にできたものだけど、組織というのは目的をもって人為的に作られたもの。摩擦が起こりがちな政治や経済と違い、教育やスポーツは国家間で競うことがあってもゼロサムゲーム的な利害の相克はない。もっとウィンーウィンの協調関係があってもいいと思います。



6.誇りを持て

現役部員とOBたちが誇りを持てる、特長のある存在であってほしいと思います。革新を求めたい。時代が求める大学ラグビー部とは何なのか。この創造 =CREATIONに誇りを持って生きることじゃないでしょうか。日本のラグビーの水準の向上に貢献する、そして多様な社会的な影響の拡大、これも先導する使命があるのではないでしょうか。



7.指導者たれ

これからの指導者には競技の技能=スキルだけでなく、人柄や各界における人脈が必要でしょう。京大ラグビー部のOBが他の大学や企業、国外のクラブチームの監督やコーチを務めることがあってもいい。現在のラグビーは主に英連邦で盛んだけど、アジア諸国の展開を先導してはどうか。国の中、あるいは外国で京大ラグビー部の OBやOGが政治行政、産業界に一目置かれる存在として活躍する。こういう日を夢見ています。



8.社会を創れ

無から有は生じません。誰かが最初作ったわけで。勝ち負けのことばかり言っていると、体力がないから負けたとか、言い訳ばかりになる。それでは面白くない。クリエイティビティを何事でも大事にしなきゃいけない。私は仕事柄、クリエイティビティを大事にするが、何事でもそれを大事にしないと。「力は正義なり」みたいになってきて良くないと思います。試合は一つのツールであり、目的はそういうことを通して人材を養成する、それを集積して良い社会を作ることでしょう。



9.感謝される者たれ

個人としてはワン・フォア・オールで、チームにとって「かけがえのない選手」であるかどうということが大事です。しかし、たいがいの人は代わりがききます。かけがえのない人ではない。単なる研究者であれば、半年も経てば次にもっと優秀な人を採用できる。だけど、長年の経験を持つ技術者は代わりがききません。ドイツではこの人たちを「マイスター」として、非常に大事に処遇しています。マイスター達も「ドイツの科学を支えているんだ」という誇りを持って暮らしている。

しかし、昨今の短期成果主義の研究社会ではこのことが全く分かってない。これは大きな問題です。私の意見では、競争をすればするほど画一化されていくと思います。今の一番の問題は、同じもの、似たものの方が違ったものよりも価値があるっていう価値観です。ラグビーでも、色々なラグビーがあっていいんじゃないでしょうか。



10.変革せよ

ピンチになると復興を考えてしまいますが、元に戻ったらダメ。変革していかないといけない。日本の歴史で二度、改革したことがあります。1つは明治維新。もう一つは第二次世界大戦の敗戦です。これぐらいじゃないとやっぱり変われないのかな。戦後、僕らが知っている、阪神淡路大震災やリーマンショック、東日本大震災があったけど、それでも日本は変わらなかった。コロナが変わるチャンスになるのかどうか。今は元に戻そうとしている。ラグビーでも元に戻そうとしたって駄目。歴史に学んで新しい方に進んで行かなきゃダメです。大それたことを言って申しわけありません。



取材:谷口 誠(H14/FL、日本経済新聞 記者)

撮影:西尾 仁志(H2 /CTB)

(2020年3月22日/ZOOMにて)



▼野依良治さんのプロフィール

1938年、兵庫県生まれ。京大時代は2回生までラグビー部に所属した。1963年京大大学院工学研究科工業化学専攻修士課程を修了。米ハーバード大博士研究員などを経て1972年に名古屋大理学部教授に就任した。2003~2015年は独立行政法人(当時)理化学研究所理事長、2015年からは国立研究開発法人科学技術振興機構研究開発戦略センター長を務める。2001年には、鏡像関係を持つ「キラル分子」の一方だけを作り出せる「BINAP触媒」を開発した功績でノーベル化学賞を受賞した。2006~2008年には教育再生会議座長も務めた。


▼野依良治さんの「ラグビーに期待する10項目」動画(約26分)


▼ラグビー関係者、学生のみなさんへのメッセージ動画はこちら(約5分)

●全国のラグビー関係者のみなさまへ

野依先生のご厚意により、「学生のみなさんへのメッセージ動画」(約5分)は、ラグビーのPRや部員勧誘のために自由にご活用いただけます。ウェブサイトに動画のリンクを張ったり、SNSなどでぜひご共有ください。

https://youtu.be/9IKeJEWiTek


>インタビュー3に続く


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